珈琲 を 飲む


   珈琲の立て方の変遷と条件--- トルコ・コーヒーとフランス・コーヒー
-----アメリカのコーヒー ---  現在行われ黷トいる珈琲の立て方

一、 珈琲 を 立てる 


珈琲の豆の選択、その焙煎、及び配合は、いずれ一つおろそかに出来ない、飲用珈琲の基本をなす条件ですが、これらの諸条件を真に活かすか殺すかは、立て方一つにかかっています。
それはあたかも如何に最上のキャンパスと油と絵の具があっても、凡庸な手によって色が塗られたなら、決して絵とならぬのと似ています。
 最も誤った考えは、珈琲が化学的な合成品ででもあるかのような簡単な見方から、熱湯中に浸しさえすれば、どんな方法でも殆ど変わりない飲料物が採られると思われたりすることです。しかしそうかといって、珈琲は余り多くの疑念を持ち、一種の恐怖感からこれに向かっても、決して良結果が得られません。むしろ格別思いも凝らさないで、唯温湯中の珈琲の質の変化の順序を静かに見守り、いうならばそれと己との一致が得られたなら出来上つた珈琲の飲料は、上々になるに違いないのです。
 珈琲調整の指針として、米国の諸権威が示した原則的な条件が、従来2,3の書で紹介されています。これ等の条件は、原則としては正しいのですが、実際に当たっては、その応用は個々の場合に、善知によって対処する必要を生ずるのです。いわば歴史的な珈琲立て方の一つの根拠として、その要点を引用します。

 原則の一例
1、珈琲材料の選択、磨砕の度合等の最もよく注意された準備。

2、水質。
 出来るだけ軟水を用い、鉄分やアルカリ性の強い硬水は避けたほうが良い。珈琲が収款性を現すのは水に起因することが多い。

3、
水温。
 珈琲の浸出には、摂氏85度乃至93度の温湯が最も適している。93度以上、特に沸騰点において調製されると、本来の苦味以外の悪い苦味や渋味を持ち、真の珈琲の風味や特質は減殺される。

4,浸出時間はなるべく短時間でその操作がおこなわれなければならない。最も適当な時間は2分から2分半であって、接触時間が長いときは、飲用珈琲として不必要な不純物の分解が起こり、また珈琲実のもつ木質部の香と渋味を付加し、その油性を乳剤化し、せっかくの純良分を阻害する結果となる。
 磨砕珈琲のもつカフェインは、その時間内で溶解し得るものの殆ど全量(80から85パーセント)を出し終わっているので、時間を長くかけても何等効果はない。但し3分から5分間位、浸出のために用いられることは、立て方によてはあり得ないことではなく、それによって甚だしく悪い結果を招くとは必ずしも決定することは出来ない。

5、浸出の器具及び容器の注意。
 珈琲の溶液は金属に対して敏感で、直ぐ反応を現すものであることは、使用する水についても注意しなければならない程であって、成るべくガラスか陶磁器(或いはその質の面をもつ器具)によって、調製しなければならない。
 金属に触れた珈琲の変質物は、珈琲の味を粗剛にするばかりでなく、生理的にも有害な物質を生成する。

原則のニ例。
 良い珈琲を造るためには、焙煎の新しい珈琲実を使用前に磨砕し、それに沸騰点に近い湯を、2分間位滴下させる。 それは技術的にもさして困難なことではなく、左の如き点に注意を払えばよい。

1、磨砕の程度は余り粗大ではいけない。珈琲の芳醇な風味を生ずる物質は、同時間内では、細かいものの方が、より完全に溶解、浸出し得るからである。

2、1人前の珈琲(カップ一杯)に対しては、少なくともテーブルスプーン一杯(2匁から3匁)の磨砕珈琲を要する。材料の使用量は、材料の質と好みの濃度に対して決められるのであるが、水の量は蒸発を考慮して、多少余分に加えて置かねばならない。
 3、沸騰させた湯を新鮮な珈琲に注ぐと、湯は珈琲に触れて、最大限度の風味を生ずるに必要な温度にまで下降する。その時もし濾紙袋を使用すれば、袋は常に清潔にして置かなければならない。
4、濾紙袋に磨砕珈琲を容れ、これに熱湯を滴下して珈琲を立てるのに、2分間以上かからぬ方がよい。長時間かけて滴下を行うと悪い苦味を生じ、風味と芳香を減少せしめる。

5、調製された珈琲は、直ちに供されねばならない。珈琲は冷却すると価値を減少する。もし止むを得ず冷めた場合には、やや音がする程度に沸かしただけで、決して沸騰させてはならない。

6、珈琲の残滓は決して二度使用してはならない。一度使用されたものは、その香気、風味をすべて出しきっているから、残滓には何の価値もない。

7、珈琲を立てる容器に珈琲の滓が残っていると、折角の出来上がりに悪影響を与えるから、器具類は常に清潔なものを使用しなければならない。

原則の三例
 如何なる場合でも、珈琲はその注文に応じて、その人数前だけが立てられる方が正しいのであるが、ホテルやレストラン等で、一度に大量の珈琲を調製しなけらばならぬ場合には、しばしば珈琲アーンが使用される。
 珈琲アーンは陶質か硝子質を施したもので、布の袋か濾過紙、または種々な珈琲即製装置がなければならない。そして布袋使用の場合にはその布袋は常に清潔を保ち、濾過紙の場合には、珈琲が立てられる都度、新しいものと取替えなければならない。
 濾過紙を用いる珈琲アーンは、その使用が便宜に出来ているため、最も好評であって、この紙はアーンの口に合わされた小容器にいはめられ、容器の底には穴があって、濾過紙を通った珈琲の浸出液は、この穴から下の貯蔵槽に滴下するのである。このような珈琲アーンの使用法としては、次の如き注意が必要である。
1、一度分に要する熱湯の全部を、アーンの上部に入れてしまうこと。

2、アーンの上部にはめられた小容器の濾過紙を、全部平らに覆うように、磨砕された珈琲を広げて置くこと

3、珈琲に注がれる湯の量は、浸出液が満たされる下部の容器の量を超えないように注意しなければならぬ。

4、濾過紙でなく、布袋が使用される場合には、湯は往々磨砕珈琲の中を通過しないで、袋の外部を通り抜けることがある。
 こういう場合だとか、湯の熱度が低かったり、珈琲の磨砕の程度が荒過ぎたりして、適当の濃度が得られない場合には、珈琲の浸液を直ちに取り出して、更に注ぎ直すのである。
 しかし珈琲の浸液と珈琲滓とが長く接触していると、好ましからぬ要素が混入されて、出来上がった珈琲を悪化させるから、湯をかけ終わったなら、少なくとも2、30分後には、滓のたまっている布袋は、アーンから撤去しなければならない。

5、普通の程度の珈琲が立てられるためには、珈琲一封度に対して2ガロン半(50人分)の沸騰した湯を用いる割合である。
 アーンの保温装置は、華氏200度から220度(摂氏約90度から95度)に保たるべきである。
6、アーンの内部は厳重に清潔にして置き、濾し袋は調製の合間には冷水で洗い、水に浸して置いた方がよい。決して石鹸その他の洗剤を用いてはいけない。

7、調製に当たって、鶏卵、塩、砂糖、バター酢等を加えることは香しくない。

原則の四例。
 
前例の珈琲アーン式の立て方については、合衆国珈琲商宣伝委員会の推薦方式といわれているものに、左の如く示してあります。

 (要約)
1、アーンの中には新しい熱湯が充分あるかどうかを注意していること。
2、アーンの保温器中の湯は充分に容れて置くこと。その温度は華氏200度から220度(摂氏約90度から95度)を保つようにして置くこと。
 保温器中の湯が沸騰すると、調整された珈琲は煮られてしまう。
3、アーンの内部が適当な状態にあるかどうかを常に検査し、容器は24時間毎に洗浄すること。
4、濾過袋は常に清潔にしておくこと。
5、濾過袋には正確な分量の、よく乾燥した珈琲を入れること。
6、アーンの中の湯は、唯湯気が出ている位ではなく、必ず沸騰していなければならない。温度計中の湯が常に上下に動いているようでなければいけない。
7、出来るだけ早く正確な湯の量を取って珈琲に注ぐこと。しかし余り急いで、湯がアーンの上部に装置してある、珈琲濾し袋から溢れないように注意しなければならない。
8、最初の浸出液は全部手早く取り出し、直ちに最注すること。珈琲が充分な細かさに磨砕されていれば、濾過は一度でよい。濃度を増すために最注すれば、珈琲の風味は犠牲にされる。
9
、珈琲が立て終わったらなら、濾し袋は直ちに取り出し、冷水で洗浄し、次に使用されるまで、冷水中に漬けて置くこと。また、布袋はしばしば新しいものと取り換えたほうがよい。
10、一杯の珈琲には、約一オンス半の純粋な混ぜ物のないクリームを用いればよい。また、サービスに当たっては、ポットやカップは使用前によく暖めて置くべきである。
11、珈琲を立てるためには、湯は何時でも新しく煮てなければいけない。決して保温器中の湯を使用してはいけない。
12、普通程度の珈琲を立てるために用いられる磨砕珈琲と水との比率は下の如くである。

珈琲
1ガロン 10オンス
2ガロン 18オンス
3ガロン 22.5オンス
5ガロン 37.5オンス
8ガロン 60オンス

注 1ガロンは約2升1合。
  10オンスは約75匁--約0.6ポンド。

濾し袋に就いての注意。
1、濾し袋に使用される布は、中程度のモスリン、または軽い関東ネルを使用し、その毛ばだった方を内側にする。
2、布目は珈琲の微小の粒子よりも細かくなければ、浸液中に粉末が混入されて、珈琲の価値を失わせる混濁の原因となる。
3、袋の形はあまり狭すぎたり、円錐形だったり、側面に何か抵抗があって、水の流通をさまたげるようになっていてはいけない。
4、材料に供せられる磨砕珈琲は、余り細かすぎると水分に会って一固まりとなり、湯はその内部に浸透しなくなるから、その荒さは指先で擦ってみて、固体の感じられる程度にして置かなくてはならぬ。
 また湯の通過が悪いからといって、匙等で中を掻き回してはいけない。

 以上のような珈琲の立て方の諸要領は、やがて簡単な機械化が行われて、上部に濾過器を持つ素材珈琲の小容器に、自動的に下部の槽から沸騰した湯が上昇して、注ぐことの出来るパイプの柱を立てた、コーヒーパーコレーターや、二段に重ねた硝子の容器を、濾過装置を持つ部分によって継ぎ、水蒸気の圧力によって、素材珈琲の用意された上部の容器に、熱湯を上げて浸出せしめ、冷却されて空気の希薄になった下部の容器に対し、上部の容器中で浸出を終わった浸出液が、常態の気圧によって濾過されて、再度戻って行くように考案された。コーヒーサイフォンを生みました。
 しかしこのような方法によっては、精度の良い珈琲を得る程には完成されてはいませんが、一層研究されれば、一見簡易な器具によっても、純粋度の高い、良好な珈琲が得られるようになると思われます。

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